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ローカリゼーションとは何か?

(日本翻訳連盟機関誌記事)


以下は、2000 年 1 月 18 日に開催された日本翻訳連盟 (JTF) 翻訳環境研究会セミナーの概要を JTF 機関紙の「日本翻訳ジャーナル」掲載のため宮代がまとめたものです。


2年ほど前よりローカリゼーション(L10N)という言葉を頻繁に聞くようになったが、多くの在宅翻訳者にとっては業界でどのような変化が起こっているのか情報を収集することは難しく、L10N の実体がよく把握できずに不安を感じている翻訳者も少なくありません。このような状況から、個人翻訳者に L10N の概要、その業界、そしてそこではどのようなスキルが求められているのかをわかってもらうことがローカライザにとっても個人翻訳者にとっても意味のあることと考え、今回のテーマが選ばれました。

フリーランサの宮代が国際的ローカライザである L&H の日本支社の能重本部長、柳ヒューマンリソーシズ&トータルクォリティマネージャに、個人翻訳者の立場から L10N に関する幅広い質問を行い、おふたりから説明を受けました。



  Q: 従来の翻訳会社と比べたローカライザの特徴は何か。

A: L10Nは、たとえば、米国で開発された英語版のソフトをマニュアルを含めて各国語バージョンに移行する作業で、通常十数カ国で同時進行する。翻訳対象はソフト、マニュアル(オンラインおよび紙)を含めて数十万語、ときには200万語に及ぶ。それは、単なる翻訳だけではなく、最終的なソフトの稼動試験までも含めた長い行程で、工程管理、品質管理などの管理作業が大きなウェイトを占める。しかも、それを3か月とか半年の短い期間に完成することを求められる。 このため、ローカライザでは翻訳者以外にもプロジェクトマネージャやQA担当者、エディタなど、プロジェクトによっては10人以上のチームで作業を行うことになる。「一度行われた翻訳のやり直しは行わない」、作業を厳しく管理するなどの条件を満たすために、できるだけオンサイトの翻訳者が求められる。在宅翻訳者に作業を依頼する場合には、英文解釈力がしっかりしていて誤訳がなく、ローカライザの指示を理解して守れる優秀な翻訳者を使うことになる。

  Q: ローカライザにはL&Hのほかにどのような企業があるか。

A: バウングローバル、ライオンブリッジ、サイマルインターナショナルなど。ただし、L&Hはドキュメント作成のプロとして、他社にできないサービスを提供するよう心がけており、他社と価格面で競争してジョブを取ろうとはしていない。

  Q: L10N と従来のコンピュータ翻訳の違いは何か。

A: ローカライズでは、パッケージソフトを各国語版に移植する。日本法人は、その日本語化を担当する。IBMやMicrosoftからの仕事も多いが、過半数は、製品を秋葉原などのパソコンショップで見かけない、多くの小さいソフトハウスの製品が対象。そして、マニュアルの対象読者は一般ユーザーではなく技術者であることが多い。ローカライザはドキュメント制作をバッチプロジェクトとして提供する。ときには、ソフトのCD-ROMのみを渡されて、この日本語版を作成してくれと言われることもあり、企画力も必要。日本の従来の翻訳会社はドキュメントの品質を保証できず、翻訳会社へ翻訳を依頼するのは、最終的にどのような品質の翻訳が上がってくるかわからずギャンブルに近い。

  Q: ローカライザでは、受注から納品まで具体的にどのような作業を行うか。

A: 大きなプロジェクトでは、ソフトウェア自体の翻訳が30万語、紙マニュアルとオンラインマニュアルを合わせた翻訳が200万語、印刷ページに換算して約1万ページを半年で日本語版にして納品しなければならない。大量で納期が短いのが特徴。したがって、翻訳、品質管理と並んで工程管理が重要な仕事となる。最終的には、ソフトウェアの動作チェックまで行って、マニュアルに従って操作すればソフトが使えることを確認して納品する。

  Q: では、ローカライザでは、どのような人材が必要となるのか。

A: 一番重要なのはプロジェクトマネージャ(PM)で、プロジェクト全体を統括し、その能力でプロジェクトの成否が決まる。PM は翻訳能力も高いことが望ましい。QA 担当者は、最終製品をイメージできる能力が必要。翻訳に関しては、翻訳者のほかにエンジニアが必要で、その間にレビュアー、エディター、リライターなどが位置する。DTP 担当者は、単にページレイアウトができるだけではなく、1000 ページ、2000 ページのドキュメントをいかに効率よく作成するかという企画管理能力も求められる。さらに、ヒューマンリソース管理、外注管理、スケジュール管理などを担当する管理者も必要である。

  Q: ローカライザではどのような翻訳者を求めているか。翻訳会社の場合と違いがあるか。

A: 翻訳者が行った翻訳は、そのまま最終製品として使えることが重要で、あとで原文と比べながらリライトするような必要があれば採算がとれなくなる。したがって、やり直しの必要がない翻訳を必要としており、また翻訳作業とその後行程は雁行して進むので、翻訳者と他の要員が同じ場所で作業をすることが望ましく、できるだけオンサイトの翻訳者が求められる。L&Hでは、優秀だからといって始めから在宅作業を依頼することはなく、必ずオンサイトの翻訳を経験した翻訳者で優秀な方なら在宅での作業を依頼するという方針である。

  Q: ローカライズに携わる翻訳者に必要なハードウェアやソフトウェアは何か。特に必要なスキルはあるか。

A: タグのハンドリングや Trados Workbench の操作は、オンサイトで数日翻訳を行えば覚えられる。やはり、絶対に誤訳をしないような基本的な英文解釈力が必要だ。在宅で作業する人には Workbench などのソフトウェアとそれが動かせる程度のマシンが必要だ。ローカライズの翻訳をやる以上は翻訳作業を行うマシンのほかに、たとえば Windows 2000 や Lynux を動かして GUI や動作を確認するためのマシンくらいはそろえてもらいたい。オンサイトでも在宅でも翻訳者には正しい意思疎通を行えるコミュニケーション能力が必要だ。





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